鳥刺しを一律に禁じる法律はない
鳥刺しには、牛レバーや豚肉のような生食用の販売・提供を全国一律に禁止する規定はありません。ただし、提供の仕方によっては違法になり得ます。
「鹿児島だけ特別に許可されているの?」「生食用と書いてあれば国が安全を認めた商品?」。こうした疑問を解くには、食品ごとの規制と、食品衛生法の一般的なルール、自治体の目標基準を分けて読む必要があります。
この記事では、鳥刺しの違法性を考えるときの確認点を、2026年9月29日に確認した公的資料をもとに整理します。
鳥刺しは違法?まず区別したい3つの話
「違法かどうか」の答えが分かりにくいのは、別々のルールがひとまとめに語られやすいためです。まず、次の3つの位置付けを押さえましょう。

- 食品ごとの規格基準:肉や内臓の種類によって、生食用の販売・提供条件が異なります。
- 食品衛生法の一般規制:病原微生物に汚染された食品などの販売を禁じる規定は、個別の生食禁止規定がなくても適用されます。
- 自治体の目標基準:鹿児島県は加工・保存・表示などの管理目標を定めています。
つまり、メニュー名だけで違法とは判断できず、全国一律の禁止がないだけで適法とも言い切れません。何を仕入れ、どう管理し、どのような状態で提供したかが関わります。
出典:東京都保健医療局「生食用の肉に法規制等があるのですか?」
食品衛生法 第6条
鹿児島県「生食用食鳥肉等の安全確保について」
全国アンケートでは、4割が「わからない」と回答
飲食店などが鳥刺しを出すことは、法律で禁止されていると思うか。全国の487人に聞いたところ、「禁止されていないと思う」は47.4%でした。「わからない」が38.2%、「禁止されていると思う」が14.4%です(トリサシサツマ調べ、2026年10月、有効回答487人)。

鳥刺しを食べたことがある人でも、8.7%は「禁止されていると思う」と答えています。決まりが分かりにくいと感じている人は、少なくありません。
アンケートのくわしい結果は、次の記事で紹介しています。

牛レバー・豚肉と鳥刺しでは、規制が異なる
「生肉の提供は全部違法なのか」と思うかもしれませんが、肉の種類や部位によって扱いは異なります。牛レバーは2012年7月から、豚肉は内臓を含め2015年6月から、生食用の販売・提供が禁止されています。
| 肉・部位 | 生食用の販売・提供の扱い |
|---|---|
| 牛レバー | 禁止 |
| 豚肉・豚の内臓 | 禁止 |
| 牛肉(内臓を除く) | 加工・調理などの規格基準がある |
| 鶏肉 | 牛肉と同じ生食用の全国一律の規格基準はない。食品衛生法の一般規制は適用される |
ここで注意したいのは、「基準がない」は、国が生食の安全性を認めたという意味ではないことです。東京都も、鶏肉は加熱調理が前提だと説明しています。
また、牛肉の基準に沿った加工をまねれば、そのまま鶏肉の生食にも使える、ということでもありません。お店が「国の基準に沿っている」と説明していても、何の肉・部位についての基準なのかまで確認しましょう。
出典:東京都保健医療局「生食用の肉に法規制等があるのですか?」
厚生労働省「牛レバーを生食するのは、やめましょう」
厚生労働省「豚のお肉や内臓を生食するのは、やめましょう」
一律に禁止されていなくても、違法になり得る
病原微生物に汚染された食品などは販売できない
食品衛生法第6条は、病原微生物による汚染やその疑いがあり、人の健康を損なうおそれのある食品などの販売を禁じています。腐敗・変敗したものなども対象で、鳥刺しもこの規制から外れません。
食中毒がまだ起きていなければ違法にならない、とは限りません。条文は、汚染の「疑い」と健康を損なう「おそれ」も対象にしています。個別の販売・提供が法令に反するかは、原料の状態や取扱いなどの事実を踏まえて確認する必要があります。
出典:食品衛生法 第6条
加熱用の鶏肉を生で提供しない
厚生労働省と消費者庁の通知は、食鳥処理業者や卸売業者から飲食店へ、表示や商品規格書などで加熱が必要な旨を確実に伝えるよう求めています。鳥刺しの仕入れを考える場合も、商品名や見た目で用途を決めないことが大切です。
加熱用の鶏肉を、生や加熱不十分な状態で提供しないでください。食中毒が発生し、加熱用と表示された肉をそのような状態で出していた場合、通知は提供の中止を直ちに指導し、重点的に監視する対応を示しています。
「鳥刺しは違法ではないと聞いた」という理解だけでは、仕入れた肉を生食に使える根拠にはなりません。用途が分からない商品は仕入先に確認し、自己判断で生食用へ転用しないようにしましょう。
出典:厚生労働省・消費者庁「カンピロバクター食中毒対策の推進に関するQ&A」(通知を含む)
営業停止などの行政処分が行われた事例もある
宮崎県が2026年6月18日に公表した事例では、加熱用の食鳥肉と鳥レバーを刺身として出していた飲食店が、食中毒の原因施設と判断され、食品衛生法に基づく2日間の営業停止命令を受けました。
これは、鳥刺しという料理名だけを理由に処分した事例ではありません。一方で、地域に生食の文化があっても、食品衛生法による行政処分の対象になります。違法かどうかを考える際は、地域の習慣と実際の衛生管理を混同しないようにしましょう。
鹿児島県の衛生基準は「特別な合法化」ではない
県が定めた加工・保存・表示などの目標
鹿児島県は、生食用として流通する食鳥肉について、加工、調理、成分規格、保存、運搬、表示の目標基準を定めています。ただし、県のQ&Aはこの衛生基準に食品衛生法に基づく強制力はないと明記しています。
したがって、「鹿児島なら鳥刺しが特別に合法になる」という許可制度ではありません。県の管理目標を満たすことと、販売・提供に関する法令をすべて守ることは、同じ意味ではないのです。
また、目標基準に達していないという一点だけで、直ちに違法と決まるわけでもありません。食品衛生法に反する取扱いがあるかは、別途確認が必要です。
レバーや砂肝は、現在の基準の対象外
県の基準は、内臓などの副生物を除く食鳥肉を対象にしています。2018年の見直しでは、筋胃(砂肝)と肝臓が除外されました。県は、微生物の管理が難しく、生食の安全性を担保できないためと説明しています。
この見直しだけを根拠に、鶏の内臓の販売が全国一律に違法になったと説明するのは正確ではありません。ただし、「対象外だから自由に生で出せる」「生食しても安全」と受け取らないでください。内臓も十分な加熱が必要です。
出典:鹿児島県「生食用食鳥肉等の安全確保について」Q1〜Q3
厚生労働省「お肉はよく焼いて食べよう」
鳥刺しの表示やお店の説明で確認すること
買う・食べる立場なら、商品の用途、保存方法や期限、販売者の注意事項を確認しましょう。「生食用」という表示は、国が個別商品の安全を認定した証明ではありません。違法ではないという説明だけで、食中毒のリスクがないとは判断できません。
鳥刺しの販売・提供を始めたい事業者は、商品規格書と取扱いの手順を用意して、管轄の保健所へ相談してください。相談内容を具体的にするため、次の情報を整理しておくとよいでしょう。
- 仕入れるもの:仕入先、肉の部位、加熱用などの用途表示、商品規格書。
- 店内での取扱い:加工・調理の手順、保存方法、器具の使い分け。
- 販売・提供の方法:店内飲食か持ち帰りか、予定するメニューと客への説明。
「鳥刺しを出すのは違法ですか」と料理名だけで尋ねるより、保健所が実際の取扱いを把握しやすくなります。この一覧は相談の準備用であり、項目を埋めれば営業や提供が認められるというものではありません。
食べる側も、「違法ではないから安心」と安全性まで結び付けないことが大切です。健康面が気になるときは、中心部まで十分に加熱された料理を選びましょう。
参考:厚生労働省・消費者庁「カンピロバクター食中毒対策の推進に関するQ&A」
鹿児島県「生食用食鳥肉等の安全確保について」
厚生労働省「カンピロバクター食中毒予防について」
国は、生食用の鶏肉について初めてのガイドラインを作る方針だと報じられています。分かっていることは、次の記事にまとめました。

鳥刺しの違法性について、よくある質問
鹿児島県以外で提供すると違法ですか?
県外という理由だけで違法になる制度ではありません。食品衛生法の一般規制や、営業・加工・販売の条件などを確認する必要があります。
食べる人が「自己責任」と言えば問題ありませんか?
食べる人の同意だけで、食品衛生法の規制は外れません。販売者・提供者が守るべき規定は別にあり、「自己責任」と伝えても違法性や責任の問題が解消するわけではありません。
メニューに載っているだけで違法なお店と判断できますか?
鳥刺しというメニュー名だけでは判断できません。原料の用途や取扱い、衛生管理を確認せずに違法だと断定するのは避け、不明点はお店や管轄の保健所に確認してください。
根拠:食品衛生法 第6条
「禁止されていない」と「安全」を分けて理解する
鳥刺しの制度を読むときは、食品ごとの規格基準、食品衛生法の一般規制、自治体の目標基準を区別しましょう。全国一律の禁止がないことは、安全性の保証にも、どのように提供しても違法にならないという保証にもなりません。
販売・提供を検討しているなら、商品と取扱いの条件を整理して保健所へ。食べる立場なら、表示や説明を確認したうえで、十分に加熱された料理を選ぶこともできます。