カンピロバクターは、新鮮でも冷凍でも消えない
カンピロバクターは鶏などの腸にいる細菌で、数百個ほどの少ない数でも人に感染します。鳥刺しでは、新鮮さや冷凍では防げません。確実になくせるのは中心部までの加熱だけです。鹿児島県は、肉の表面を焼いて菌を減らす加工の基準を設けています。
「鳥刺しのカンピロバクターって、どんな菌?」「なぜ新鮮でも危ないといわれるの?」「鹿児島の鳥刺しは何が違う?」。こうした疑問に、厚生労働省や食品安全委員会の資料をもとに答えます。菌の性質から、対策の考え方までを順に整理しました。
菌を減らせる
- 中心部を75℃以上で1分間以上加熱する
- 肉の表面を焼く
- 器具を洗い 肉用と分ける
防げない
- 新鮮な肉を選ぶ
- 冷凍する
- 湯にくぐらせる
生で食べる限りリスクをゼロにはできない
鳥刺しで問題になるカンピロバクターとは
カンピロバクターは、鶏や牛などの家畜、ペット、野鳥まで、多くの動物が腸の中に持っている細菌です。鶏は菌を持っていても元気なままで、見た目では区別できません。厚生労働省の説明をもとに、性質を表にまとめました。
| 項目 | 性質 | 食べる側への意味 |
|---|---|---|
| 感染に必要な数 | 数百個ほど | 少し付いているだけでも感染する |
| 増える場所 | 人や動物の腸の中だけ | 肉の上では増えないが 減るとも限らない |
| 弱いもの | 乾燥 通常の加熱調理 | 中まで火を通せばなくせる |
| 症状が出るまで | 1〜7日 | 原因の食事に気づきにくい |
ほかの食中毒菌と違うのは、少ない数で感染し、食品の上では増えない点です。「室温に置くと菌が増える」という一般的なイメージとは、仕組みが異なります。保存に気をつけるだけでは防げない理由がここにあります。
鳥刺しによる食中毒の症状や国内の発生件数など、全体像は次の記事にまとめています。

出典:厚生労働省「カンピロバクター食中毒予防について(Q&A)」
カンピロバクターが鳥刺しの肉に付く経路
菌は、もともと鶏の腸の中にいます。肉の部分にいるわけではありません。鶏を処理して内臓を取り出すときに、腸の中身が肉の表面に触れて移ります。
- 農場1羽の腸に定着すると 鶏舎の中で広がる
- 処理場羽を取り内臓を出す工程で 肉の表面に付く
- 同じ設備での処理菌を持たない鶏の肉にも移る
- 店と家庭まな板や包丁を通じて ほかの食品へ移る
食品安全委員会「カンピロバクターとの長い闘い」をもとに作成
どのくらいの鶏が菌を持っているのでしょうか。農林水産省の令和5年度の調査では、調べたブロイラー684羽のうち52.8%の腸から菌が見つかりました。冷却後の鶏肉(むねの皮)では、70検体のうち49%が陽性でした。
同じ調査では、腸から菌が出た鶏の肉は65%が陽性でした。一方、腸から菌が出なかった鶏の肉でも14%が陽性です。処理の工程で、ほかの鶏から移ったと考えられます。厚生労働省は、今の処理技術で菌を100%取り除くことは難しいとしています。
これらは加熱して食べる一般の鶏肉の調査で、生食用として加工された肉の数字ではありません。ただ、健康に見える鶏でも菌を持っている場合があるという前提は、鳥刺しに使う鶏でも変わりません。
出典:厚生労働省「カンピロバクター食中毒予防について(Q&A)」
食品安全委員会「カンピロバクターとの長い闘い」
新鮮・冷凍・湯引きでカンピロバクターは防げるか
鳥刺しについては、「こうすれば大丈夫」という話をよく聞きます。代表的な3つを、公的な資料で確かめます。
新鮮な鶏肉なら安全とはいえない
厚生労働省は「新鮮だから安全」ではないと明記しています。菌は鶏が生きているときから腸にいて、処理の段階で肉に付くためです。朝びきの肉でも、付いているものは付いています。
食品安全委員会によると、この菌は30〜46℃の温度を好み、冷蔵で流通している間は増えないと考えられています。時間がたつほど菌が増えるわけではないので、鮮度は安全の目安になりません。反対に「新鮮なほど危険」という言い方も、正確ではないとされています。
冷凍しても菌は残る
冷凍は保存のための方法で、菌をなくす処理ではありません。茨城県は、冷凍した鶏肉からも菌が検出されており、冷凍しても完全に死ぬことはないと考えられる、と説明しています。冷凍の鳥刺しも、生で食べるリスクは同じように考えてください。
湯引きや軽いあぶりでは足りない
加熱用の鶏肉を湯にくぐらせる程度では、菌は死滅しません。厚生労働省は、食中毒の原因として、鶏肉のタタキや鶏わさなどの半生の料理を挙げています。家庭で確実に防ぐ条件は、中心部を75℃以上で1分間以上加熱することです。
出典:厚生労働省「カンピロバクター食中毒予防について(Q&A)」
食品安全委員会「カンピロバクターとの長い闘い」
茨城県「カンピロバクターの食中毒」
鹿児島の鳥刺しとカンピロバクター対策
鹿児島県は平成12年に「生食用食鳥肉の衛生基準」を作り、平成30年に見直しました。宮崎県にも同じような基準があります。菌による汚染は肉の表面で起こるため、表面の菌を減らし、新たに付けない衛生管理の手順を定めています。
| 段階 | 基準の内容 | ねらい |
|---|---|---|
| 成分の目標 | カンピロバクター属菌などが陰性であること | 目指す状態を決める |
| 処理場 | 腹の中を流水で洗い 水切り後に表面を焼く | 表面に付いた菌を減らす |
| 加工と調理 | 専用のまな板と包丁 器具は83℃以上の湯で洗う | 切るときに菌を付けない |
| 保存と運搬 | 10℃以下 冷凍は−15℃以下 | 温度を保つ |
| 表示 | 生食用である旨 施設名 リスクの説明 | 買う人が判断できるようにする |
鹿児島の鳥刺しの表面に焼き目があるのは、この工程があるためです。対象は肉だけで、レバーや砂肝などの内臓は生食用に含まれていません。
ただし、基準は事業者に求める目標で、すべての商品の安全を保証するものではありません。県も、食肉の生食には食中毒のリスクがあること、子どもや高齢者、抵抗力の弱い人は控えることを、表示するよう求めています。県内の発生状況は、次の記事で扱っています。

出典:鹿児島県「生食用食鳥肉等の安全確保について」生食用食鳥肉の衛生基準
食品安全委員会「カンピロバクターとの長い闘い」
鹿児島県の基準は、肝臓を対象から外しています。その理由と、鹿児島市で売られていた鶏レバーの調査結果は別の記事で紹介しています。

カンピロバクターを避けるために家庭でできること
鳥刺しを食べるかどうかを決めるのは自分です。食べる場合に、購入から食卓までで注意したい点は次のとおりです。
- 生食用の表示がある商品を選び、加熱用の鶏肉は生で食べない
- 表示の温度で保存し、期限内に食べる
- 生肉に触れた手、まな板、包丁、箸はすぐに洗う
- 生肉用の箸や皿を、サラダなどほかの料理と共用しない
- 子ども、高齢者、妊娠中の人、体調の優れない人は生で食べない
飲食店で提供される鶏刺しも、生食用の肉を仕入れているとは限りません。厚生労働省は、未加熱や加熱不十分な鶏肉料理を避けることが最も効果的だとしています。不安があるときは、火を通して食べる方法を選びましょう。

国が作る方針の、生食用の鶏肉のガイドラインについては、次の記事で整理しています。

鳥刺しとカンピロバクターのよくある質問
食べてからどのくらいで症状が出る?
一般に1〜7日後です。下痢、腹痛、発熱などが出て、多くは1週間ほどで治ります。数日前の食事が原因になるため、気づきにくいのが特徴です。まれに、数週間後にギラン・バレー症候群を発症する可能性も指摘されています。症状が出たときの対応は、次の記事を参考にしてください。

鶏肉を生で食べる人はどのくらい感染している?
食品安全委員会が2009年にまとめた評価に、推計があります。鶏肉を生で食べる人が1食で感染する確率は、平均して家庭で1.97%、飲食店で5.36%でした。生で食べない人は、家庭で0.20%、飲食店で0.07%です。全国の平均の推計で、鹿児島の生食用の肉に限った数字ではありません。
鶏肉以外にもこの菌はいる?
います。牛や豚など多くの動物が持っており、厚生労働省は健康な牛の肝臓や胆汁から菌が見つかった調査を紹介しています。国内では水が原因になった事例もあります。ただ、原因として多く挙がるのは、生や加熱不足の鶏肉です。
出典:厚生労働省「カンピロバクター食中毒予防について(Q&A)」
食品安全委員会「カンピロバクターとの長い闘い」
鳥刺しのカンピロバクターは性質を知って判断する
カンピロバクターは、少ない数で感染し、新鮮さや冷凍では防げない菌です。鶏の腸から、処理の工程で肉の表面に移ります。
鹿児島の鳥刺しは、表面を焼いて菌を減らす基準のもとで加工されています。それでもリスクはゼロになりません。確実に防ぐ方法は加熱です。
この記事は公的機関の情報をもとにした一般的な案内です。症状があるときは、医療機関に相談してください。